コマースメディア井澤氏が語るShopify最新情報|Shopify最新情報とEC運営体制について

この記事では、Shopify最新事情として、先日開催されたShopify Unite 2022の様子と、グロース戦略としてどのようなEC運営体制を目指せばいいかについて紹介します。コマースメディア株式会社代表取締役の井澤孝宏氏と株式会社アプロ総研代表取締役の李重雄氏による講演に基づいて構成しています(本記事内の進行はアプロ総研の李氏)。同セミナーの「Shopifyを使ったEC運用について」はコチラ

※2022年11月2日(水)開催のEC Growth Day「Shopifyを使った売上UP戦略とオペレーション構築の重要性」を動画でご覧になりたい方はアーカイブにてご視聴ください。

Shopifyの情報があふれるグローバル・カンファレンス

――Shopifyが主催する大きなイベントに参加されたそうですが、どのようなものか教えてください。

Shopifyが年1回開催する、「Shopify Unite」と題したグローバルのEコマースカンファレンスです。私は10月26日~27日にオーストラリアのメルボルンで開催された「Shopify Unite 2022 in Melbourne」に、約20人ほどの日本パートナー企業の一員として参加してきました。

メルボルンにAPACエリアのメンバーが集結

――Shopify Unite にはどのような人たちが集まるのですか。

2019年までは、Shopify本社のあるカナダ・トロントで大規模なカンファレンスが開催されていて、世界各国からEコマース事業者が集結してました。2020年と2021年はオンライン開催になり、2022年はエリアを分けて世界3カ国で分割開催されています。

メルボルンに集まったのは、APAC(エーパック)エリアと呼ばれるオーストラリア管轄のメンバーが中心で、エージェンシーと呼ばれるShopifyのストア構築を支援する企業やアプリ開発パートナーなど。東南アジア全域はAPACエリアなので、アジア圏のパートナー企業も集まっていました。

――Shopifyを活用しているEコマース事業者は参加した方がいいイベントでしょうか。

今年度から、Shopify Uniteは開発向けの機能紹介や具体的なエンジニアリング、パートナー企業の導入事例などがトピックスの中心となっています。

これまでカンファレンスで発表されていた製品アップデート情報などは、今では「Shopify Editions」として年2回オンラインで発表される様式になったので、最新機能を知りたいなら、そちらを確認するといいと思います。

ただ、エージェンシーやアプリ開発に携わる人にとっては、これから展開されるコアな内容を先行して教えてくれたり、まだ表には出せないオフレコ情報なども得られる貴重な機会ではあります。

Shopify Uniteで発表された気になる機能

――今回発表された最新情報で、気になるトピックスはありましたか。

開発者向けという前提ですが、これからShopifyの作り方の流れが変わりそうな予感がありました。

例えば、メタフィールド。自由度が高く、商品や顧客のデータ構造を柔軟に設計し、管理できるフィールドです。このメタフィールドを横断的に管理できるように、コンテンツプラットフォームが強化されました。

データ構造を自由に設計して、情報をどのように管理するか、自分で決めていけるようになるので、メタフィールドの利便性や拡張性がもっと広がると期待できます。

――アイデア次第で、ストア構築のオリジナリティが高まるということでしょうか。

そのとおりです。ECシステムは、システム会社が用意したフォーマットに合わせてストアを構築する流れが多かったと思いますが、Shopifyには自由にカスタマイズできる柔軟性が付加された。設計の工夫がストアの使いやすさにも影響するようになると思いますよ。

日本EC市場の成長が注目されている!?

――Shopify本社にとって、日本市場はどのように見られているのでしょうか。

日本のEC市場は右肩上がりに成長していて、現在の世界シェアは中国、米国、イギリスに続く第4位。まだまだ成長が見込まれるので、動向を注目してくれていると思います。

ただ、Shopify社は日本だけを特別視しているわけではなく、世界全体の情勢を見ています。これからは越境ECという展開を考えることもあるでしょうから、世界の仕組みに合わせていくという視点が必要になると思います。

 ――世界に触れて、改めて気付いたことなどはありますか。

Shopify Uniteでも、メルボルン市内を見ても思ったことですが、日本製の商品って、やはり良質なものが多いんですよ。もっともっと世界に出ていくべきだと改めて感じましたね。

例えばスイーツにしても、日本のお菓子はバリエーションが多くて魅力的です。それなのに、まだまだ世界に知られていないのはもったいないと感じます。Shopifyは海外展開をしやすいプラットフォームなので、Shopifyを使いこなすことでグローバル化を図るのも、1つの手じゃないかと思っています。

流通規模を増やしたいなら多店舗展開は不可欠

――話は変わりますが、多店舗展開の必要性に関してはどのように思われますか。

私自身は楽天出身で、モールでのEC運営もShopifyをメインにするやり方も両方とも経験してきました。その経験からお話させていただくと、日本のEC市場は、7割がモールで自社サイトは3割という規模になっています。

つまり、流通額を増やしていくことを考えたら、モールへの出店、多店舗展開は避けては通れない道だといえるでしょう。

モールごとのユーザーかぶりは少ない

――自社サイトがあるのに、モールに出店したら顧客を取られてしまうと不安に思うユーザーもいるようですが。

むしろ、モールでの買い物を主としている見込み顧客を逃してしまう機会損失のほうが大きいと思います。

実は、顧客分析をしてみるとモールごとで利用するユーザーの属性が違っているので「かぶり率」が少ないんです。もちろん、モールを横断しているユーザーもいるのですが、全体からみたら数パーセントに過ぎません。

例えば、楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazonなどのモールに出店し、さらにShopifyで自社サイトを運営しているとします。Shopifyに注力するために楽天市場のストアを閉じたとしても、楽天ユーザーが自社サイトまで流れてきてくれる可能性は低いでしょう。

やはり流通規模を拡大するという視点に立つと、バランスを見ながら店舗を増やして全体展開していくことが重要です。

――モールごとに属性が違うなら、モールごとに売れやすい商品も違ってきますか。

そうですね、確かにモールごとで違いが出ます。例えば、同じ商品でもセット販売にするなどラインナップを変えて販売してみたら、楽天市場では3,000円単価の品、Yahoo!ショッピングでは1,000円単価の品、Amazonでは5,000円単価のセットが最も売れたという事例もあります。

決してYahoo!ショッピングでは高い商品が売れにくいというわけではなく、ポイント率が良く、貯めたポイントを消化できることから低単価の品が売れやすい。そうしたモールごとの特徴的な傾向はありますね。

年齢層の高い新規客を狙うならdショッピングに注目

――おすすめのモールなどはありますか。

流通がとれるという意味では、Amazonと楽天市場は外せないですね。ただ、競争が激化してしまっているので費用対効果があまり良くない。新たなフィールドを開拓するという意味で最近注目しているのが、ドコモが運営している「dショッピング」です。

弊社でサポートを始めてからまだ日が浅いので、事例数はそれほど多くはないのですが、ドコモユーザーが利用することが多く、顧客の年齢層は少し高めです。これまでアプローチできていないゾーンなので、まるごと新規見込み客として狙える可能性があります。

dショッピングもネクストエンジンは連携していますし、激戦を避けて利を得られる新規展開先としては注目のモールだと思います。

グロース戦略の第一歩は、OMSを導入して現場の負担を減らすこと

――多店舗展開の話に戻しますが、扱うストアが増えるほどオペレーションが煩雑になりやすくなりますが、とくに注意すべき点はどこだと思いますか。

ストアが増える度に必要な人手も増えるという構成にしてしまうと、事故が起こりやすくなります。在庫管理の連携がとれずに、受注したのに品物がなくて配送までに日数がかかってしまい、モールからペナルティを受けてしまうような事例もありますね。

――ペナルティが厳しくなるというのは、具体的にはどのようなことですか。

各モールごとに出荷見込み日時を設定できるので、それを守っていれば罰則的なペナルティはないのですが、配送日時が遅いストアは、検索結果で上位表示されなくなります。この影響が最も大きいですね。

配送の遅れだけでなく、個人情報漏えいリスクを防ぐ意味でも、やはり情報はOMS(受注在庫連携システム)で一元管理することをおすすめしたいですね。

――現場では、OMSで管理されている企業が増えているのではないですか。

以前、複数のEC店舗を運営している企業を対象にOMSの導入状況をアンケート調査したところ、導入活用している企業は、約半数だったそうです。

流通総額が大きくなってきても、CSVで倉庫にデータを送るという人手に頼ったやり方を続けているところもあって、危なっかしいと思うこともあります。

――一方で、まだ半分はOMSなしで運用できるなら、慌てて導入しなくても回していけるんじゃないかとも思いますが。

一番の弊害は単純で、売上が頭打ちになります。OMSを入れずに人が管理しようとすると、日々のオペレーションで現場に余裕がなくなり、商品ラインナップを全部モールに登録しきれないなどの各種事情が発生して、売り逃しが発生しやすくなるからです。

よくお伝えさせていただく事例なんですが、ある飲食チェーン店でストア構築支援を引き継いだ際は、OMSを導入してオペレーションを見直しただけで、翌月の売上が3倍になりました。オペレーションの効率化だけで、それほど結果に違いが出ることもあります。

多店舗に限らず、1店舗経営の場合でも、オペレーションの負荷がかかりやすい部分を見直して、効率化を図ることは大切です。これができないと、新しいことに挑戦できないので。現場の負担を軽減させることが、何よりも重要なグロース戦略になると思います。

――講演の内容をさらに詳しくご覧になりたい方は、アーカイブ視聴をご利用ください。

【講演者】

井澤孝宏
コマースメディア株式会社 代表取締役

Shopifyエバンジェリスト。2011年楽天株式会社に入社。ECコンサルタントとして、さまざまなジャンルのストアサポートを行う。さらにベンチャー企業にてEC事業の立ち上げから上場を経験した後、2016年コマースメディア株式会社を設立。2017年日本で3社目となるShopifyエキスパートに認定。Shopifyおよびモールを含めた、ECサイトのマーケティング・制作・運用・ロジスティクスのサポートおよびコンサルティングを手掛けている。

【進行】

李 重雄
株式会社アプロ総研 代表取締役

大阪生まれ、大阪育ち。近畿大学理工学部経営工学科卒業後、株式会社ソフトウエア・サイエンスにSEとして入社。百貨店の顧客管理システム、スーパーのPOSシステム、自動車事故のコールセンターシステムなどを経験した後、2007年に大学時代の同級生と株式会社アルクムを設立。Movable TypeのプラグインとしてECパッケージ「AlTrade」を開発。2012年に株式会社アプロ総研を設立。

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